[完]源氏物語 巻十

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源氏物語巻10


『浮舟』の帖は、薫と匂宮の二人から愛されて板挟みになり、悩み苦しむ浮舟を描く。匂宮はいつまでも、思いを遂げられなかった浮舟を忘れられない。中の君にまで、隠したのだろうと恨み言をいう。中の君は薫と妹の浮舟のことは知らせず、自分の胸に畳み込む。薫は浮舟を匿う宇治を、しばらくは人に秘密の隠れ家にしようと考え、三条の宮近くに移す算段をする。あるとき、浮舟が中の君あてに送った手紙を匂宮が見つけてしまう。「宇治に薫の君が通っているのは、こういう女を隠していたから」と、気づく。いてもたってもいられなくなった匂宮は「いつか二条の院で見た女かどうかを見定めたい」と、思いつめるように。薫との共通の職場の仲間、内記というものに相談して宇治へと向かい、覗き見する。「中の君とよくまあ感じが似ている」と思い、会いたいと熱望していた人を目の前にして、薫のふりをして浮舟に近づき、思いを遂げる。浮舟は匂宮だと気づき、中の君のことも考えると、とめどなく泣くばかり(ひどすぎる!!!!)。匂宮もこれから簡単に通うことができないことに及んで、やはり泣く(自分のしたことなのに!!)。そして一晩泊まり、翌日もまた二人で過ごし、お互い強く惹かれ合い恋に落ちる。匂宮もまた、「ここから連れ出して、他所へ移してしまおう」と考える。中の君と若君の待つ二条の院に戻った匂宮は、悩みに沈んで病の床につく。翌月、薫がひそかに宇治へと向かうが、浮舟は「思いもかけず匂宮に惹かれた恋心を薫に知られたらただ事ではすまない」と思い乱れる。男は亡き大君を思いだし、女は辛く苦しい運命を嘆きながら、お互いの物思いに沈む。

病が回復した匂宮は、「呆れるほど無理な算段をして」宇治へ出かける。浮舟をいきなり抱き抱え小舟の乗り込み、小さな家へ連れて行き、二人きりで二日間思うさま愛し合う。二条の院に戻った匂宮はまた、体調を崩し痩せていく。

薫は新築の家のことを、あの内記の親戚に命じたことから、匂宮に知られてしまう。焦った匂宮はすぐに違う場所に浮舟を移そうと計画を始める。浮舟は双方からの誘いに、気持ちがゆれ「死んでしまおう。いつかはきっと世間に顔向けできないことが起こる」と考えるように。手紙のやりとりに感づき、薫は匂宮と浮舟の関係を知る。そして、浮舟に自分は気づいていると、それとなく手紙で知らせ、宇治の山荘の警護を厳重にして、他の男を近づかないようにする。手紙も届けられないくらいの厳重さに、匂宮は宇治を訪ねるが、浮舟に会うことなく京に帰る。匂宮、薫のどちらもが、浮舟を京に移したいと、支度を急いでいる。薫には恩があり、誠意ある態度は好ましい。だが、匂宮への恋心は募る。中の君への手前、薫との縁を大切に思う母への気持ち、宇治川へ身を投げるしかないと浮舟は追い詰められていく。

『蜻蛉』(かげろう)のように消えてしまった浮舟に、残された薫と匂宮をはじめとする、様々な人間模様を描いた帖。翌朝、浮舟がいないのに気づいた宇治の山荘の大騒ぎから始まる。胸騒ぎした京の母から2度にわたる手紙が届いていたが、匂宮との秘密を知る右近や侍従は「宇治川に身を投げた」と推量するが、そのほかの女房たちも右往左往するだけ。事情を知ろうと匂宮の使いが駆けつけるが、はっきりとした内容は知らせない。京から慌てて駆けつけた母君にはありのままを知らせ、ごく内密に葬儀を済ませる。薫はちょうどお母様の病気の祈願の最中で、その事件のことを知らず、宇治に駆けつけることができず、ただ勤行に励む。匂宮は正気もないぐらいに嘆き、悲嘆にくれている。そこで薫は匂宮をお見舞いして、ふたりのただならない関係に気づき「気づかない自分を、さぞ間抜けな男だと」物笑いにしていたはずと勘ぐる。中の君は、宇治での出来事はすべて承知で、姉の大君、妹の浮舟、どちらもあまりにもはかないと嘆き、心細く思う。匂宮は浮舟に仕えていた侍従を呼びよせ、浮舟が身投げしたときの子細を語らせる。薫は宇治に右近を訪ね、真相を知る。また浮舟の母にも気配りして、浮舟の別腹の幼い弟たちが朝廷に仕える時には後ろ盾になると伝える。四十九日の法事は、格別に立派に済ませる。

悲しみにくれていたはずの男たちは、少しずつ変化を見せ始める。匂宮はおそばの女房たちに気を紛らせることが多くなる。また、薫は北の方の姉女一の宮を覗き見して、この人と結婚したかったと思い、北の方である二の宮に一の宮が着ていた衣装と似たものに着替えさせ、同じような仕草をさせて楽しむ。また、一の宮との繋がりを持ちたいと、二の宮に手紙を書かせるなどする(ああ、浮舟への想いはどこへ)。宮の君という女性を巡っての薫と匂宮の鞘当ても語られて、なんとも呆れた展開となる。

『手習』の帖は、身投げした浮舟が比叡山の横川の僧都に助けられ、出家するまでを描く。僧都には80歳あまりの母と50歳ほどの妹がいて、一緒に初瀬詣に行った時に、母尼が体調を崩し、宇治の院で休むことに。そこで、身投げに失敗した浮舟が激しく泣いているのに出会う。娘を亡くした妹は、「恋悲しんでいる娘が帰ってきた」ように思い、世話をする。「誰にも逢わせないで、この川に投げ込んでください」と言ったきり、浮舟は全くものを言わずに、ぐったりしたまま。僧都は祈祷をして物の怪を憑座に乗り移らせ、退散させた。浮舟は意識が戻るが、記憶喪失で、自分の名前も思い出せない。妹の尼も、そばにいる女房も、死なせるのが惜しい美しい器量なので、大切に看病する。少しずつ回復し、記憶も徐々に取り戻す。妹の尼の娘であった姫君には今は中将になった婿がいて、あるとき訪ねてきた。たまたま浮舟の後ろ姿を垣間見て、興味を持ち始める。浮舟は「どんなことがあっても結婚だけはしたくない。男女の関係は忘れてしまおう」と、決意しているので、相手にしない。秋、尼君が初瀬詣に浮舟を誘うが、同行を断る。人の少なくなった庵に中将が訪ねて来るが、遅れた浮舟は決して会おうとしない。その翌朝、僧都が突然山を降りて来る。「どうか尼にしてください」と懇願して、尼君のいない間に髪を下ろし、出家を済ましてしまう。俗世に暮らさなくてよくなって、浮舟だけが晴々と嬉しい気持ちになる。初瀬詣から戻った尼君は、ことの次第に嘆き惑う。

一方、京で中宮との繋がりの深い僧都は、宮に宇治でであった姫(浮舟)のことをあれこれと話す。中宮はあの宇治のあたりで姿を消した女ではないかと思い出す。そして薫の耳にも届き、あるとき浮舟の弟を連れて横川へ訪ねる。

『夢浮橋』の帖は、薫が親交を深めていた僧都から浮舟のその後の仔細を聞くところから始まる。「死んでしまったと諦めていた人が、生きていたのかと、思いがけず呆然として、涙ぐむ」薫の姿に、僧都は浮舟の出家を助けたことを悔やむ。いきなり自分で訪ねていくことを憚り、弟に手紙を持たせて浮舟の様子を伺うが、「母君一人にはお会いしたい」が、薫には知って欲しくないと、弟と会うことも拒む。薫は「誰か男が隠し住まわせているのか」と想像をめぐらせる。

薫28歳、「源氏物語」54帖はここで幕となる。

なんとも呆気ない終幕だけど。。。