源氏物語 巻七

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「女三の宮との件以外には源氏に対して過ちがないのだから、死んでしまったら哀れんでくださるのではないか」と悩み続ける『柏木』が、ついに命を落とす帖。女三の宮は男君を産むが体調は優れない。源氏は「今度のことは自分(と藤壺)の秘密の罪業の報い」と思い、人前ではとりつくろうが生まれたばかりの若君を格別見ようともしない。女三の宮は源氏のよそよそしさに気づき、出家したいと望む。一方、朱雀院は娘の宮が病気だと知っていてもたってもいられず、山を降り見舞い、願いを聞き入れ出家を助ける。柏木は親友の夕霧に「源氏と行き違いがあって病みついた。鋭い目つきで睨まれて、さらに悪くなったが、どうか源氏に釈明してほしい」と、遺言を残し亡くなる。残された若君はすくすくと育ち、源氏は「柏木に似ている」と密かに思い、尼となった宮に時々皮肉を言うことも(怖)。

笛が上手だった柏木が式部卿の宮から賜った『横笛』を、柏木の母君から託された夕霧が源氏を訪ねる帖。源氏は、すくすくと美しく育つ若君を見て「気高く、重々しく、常人とは違う」のは、自分に似ているのではないか、と思い(凄っ!)可愛がるようになる。横笛は、若君に伝えようと源氏が受け取る。夕霧は雲居の雁との間に多くの子を持ち、賑やかに暮らしている。親友だった柏木と女三の宮の間にあったことをうすうす感じてはいるが、源氏に確かめることはできずにいる。

『鈴虫』の帖。女三の尼宮の作った仏様の開眼供養が行われ、朱雀院は尼宮を自分が譲った実家、三条の宮に移したいと望むが源氏は自分の住まいである六条の院から移そうとしない。秋の虫を放った六条の院で鈴虫の宴が行われた日、冷泉院からお招きが来る。お年とともに冷泉院は源氏とますますそっくりに立派になっている。秋好む中宮もまた、母六条の御息所が罪障深く苦しみ、今も物の怪になって現れているという噂を耳にして、出家したいと願っているが、これも源氏は許さない。

親友柏木の北の方であった女二の宮への『夕霧』の届かない恋心を描く帖。品行方正で堅物、雲居の雁との間には8人のお子をなし円満に暮らしていたが、柏木の遺言にしたがって、女二の宮のお世話をするうちに、恋心を募らせるようになる。女二の宮の母、御息所が病に伏した際、お見舞いにかこつけて想いを告げるが女二の宮は拒む。ある日、隙を見つけて御簾の中へするりと入り込む。宮は強く抵抗して操を守るが、母御息所の耳には届き、病がこじれ亡くなってしまう。夕霧は悲しみに沈む女三の宮を何度も見舞うが、冷たくあしらわれる。どうしても想いを聞き入れてもらえないことがわかって、「御息所が承知の上の間柄だったのだと人には言っておこう」と嘘をつき、女二の宮が知らないうちに婚礼を決めてしまうが、宮は夕霧を決してそばに寄せつけようとしない。夕霧の北の方、雲居の雁は嘆いて、里に帰ってしまう。

紫の上が病の床で亡くなられるまでを描いた『御法』の帖。長年に渡って書かせていた法華経千部を供養する法会の日、明石の君、花散里、明石の中宮や、孫にあたる三の宮など親しかった人たちと言葉を交わす。「痩せ細っていらっしゃるが、高貴で優雅な限りないお美しさ」に輝いているが、明石の中宮と面会中ついに息絶える。源氏の悲嘆は限りなく、葬儀の日、足元もおぼつかず、人に寄りかかってやっとたっているほど。今日こそは、今日こそは出家しようと思いつつ、月日が過ぎていく。

紫の上が亡くなり、源氏の悲しみに溢れた1年を描いた『幻』の帖。年明け、年賀に訪れる人にもあわず、気のおけない女房たちと思い出話にふけって日を送る。女三の尼宮や、明石の君、花散里など女君を訪ねてもお泊まりをすることもなく、ひとり寝を続ける。夕霧や孫たちとの交流に気持ちを紛らわせながら紫の上をしのび月日を送り、年末、紫の上の手紙を焼き、最後に人前に輝かしく美しい姿を見せて、出家に至る。源氏52歳。

『雲隠』はタイトルのみで本文はない。源氏亡き後の登場人物の生活を説明した次の『匂宮』までの間に8年間の空白がある。訳者である瀬戸内寂聴さんは、「紫式部は源氏の死を描くつもりはなかったのだと思う」と、解説しているが私も同感。解説によると「源氏は出家後、嵯峨に隠棲して、2〜3年後に死んだ」という。

源氏が亡くなって後、「あの輝かしいお姿や世評の栄光を受け継いだ方」はいない、としながらも、帝と明石の中宮の間に生まれた三の宮と、女三の尼宮の若君がそれぞれ美しいと評判となっている。三の宮は元服して兵部卿の宮となる。女三の尼宮の若君は冷泉院がとりわけ大切に後見されて元服を果たすと14歳で侍従となり、右近の中将に昇進して早々と1人前に。帝や夕霧もたいそう気を使ってお世話する。本人は自分の出生の秘密(源氏ではなく柏木と女三の尼宮の不倫の子)をうすうす感じていて、憂いのある人柄となる。この中将は生まれながら備わった人を魅了する芳しい体臭があり、「薫る中将」とあだ名される。何かと比較されることでライバル心を持つことになった兵部卿の宮は、いろいろ優れた名香を焚きしめ、熱心に香の調合をするなどして「匂う兵部卿」と呼ばれる。薫中将は出生の秘密について屈託があり、気まぐれな浮いた色事には気持ちが進まない老成した性質に。匂宮は華やかに女性との噂が絶えないが、特にこの人と心にかける方はいない。このように、源氏亡き後の登場人物のその後を描いたのが『匂宮』の帖である。

『紅梅』の帖は、亡き柏木の弟、按察使大納言一家の話。大納言は中の君を匂宮と結婚させたいと気を引こうとするが、匂宮は真木柱の連れ子の宮の姫君に関心があり、乗り気にならない。また、好色な匂宮は宇治の八の宮の姫君にもご執心だ。