源氏物語 巻五

f:id:purpleprincess3:20200614134217j:plain


『蛍』の帖、源氏はまだまだ玉鬘の君への思いを諦めきれない。その上、姫に思いを寄せて文を送る男性たちへの返事も書きなさいと進め、さらに姫の気持ちは波立つ。兵部の卿の宮がお訪ねの時に源氏は玉鬘のご几帳の中に蛍を放ち、姫の美しい顔を脳裏に刻ませることでさらに恋しい気持ちを掻き立てる。

花散里とは寝所は別となっているが、お話し相手としては最高の相性になっている。

長梅雨に、女君たちは絵物語を退屈しのぎに楽しんでいる。紫式部はここで源氏の君に物物語論を語らせる。「この世に生きている人の有り様の、後世にも言い伝えさせたい事柄を書き残したのが物語の始まり。全く嘘だというのも、物語の本質を間違えてしまう」。

内大臣(頭の中将)は多くの子がいるが、姫は少なく、しかも思い通りに運ばないことを嘆いていた。それにつけても気がかりなのは夕顔の君との間の子、(玉鬘の君)。あの姫はどこにいるのだろうと、気を揉んでいる。

『常夏』では、源氏は内大臣が落としだねの姫(近江の君)を引き取った噂を聞く。その姫は、玉鬘の君とはまるで違う、早口で田舎者だった。源氏の玉鬘への気持ちは変わらないが、辛くも思いとどまっている。内大臣は自分の姫、雲居の雁も玉鬘の君のように男たちをヤキモキさせたかったと悔しく思うが、いつかは夕霧の中将と夫婦にと、心中では思っている。

近江の君は内大臣に出仕させられて、嘲弄に晒されている。玉鬘の君は実父ではなく源氏に引き取られて幸運だったと思う。源氏はますます姫のお部屋に入り浸るようになるが、男女の関係には至らない。柏木の頭の中将は実の姉とは知らず、恋心を抱いている。

例年よりも荒々しい『野分』が吹き荒れた秋、夕霧の中将は紫の上のお顔を初めて垣間見て、恋心を抱く。いつも恋しく思い続ける雲居の雁を差し置いて、紫の上の面影が忘れられない自分に驚く。その気持ちに源氏は薄々気づく。また、玉鬘の君と父源氏の色めいた様子を偶然目にしてしまう。さらに、美しく成長した明石の姫君も垣間見る。「こんな美しい人々を想いのままに明け暮れ拝見していたい」と思い、親や姉妹なのに源氏が近づけてくれないことを恨む気持ちが芽生える。

源氏は玉鬘の姫君の将来を考えて、宮仕えを勧めている。その年の12月、冷泉帝の『行幸』があり、六条の院からも女君たちが揃って見物に出かける。玉鬘の姫君は実の父、内大臣の姿を探すが、帝の優れたお姿に心を奪われる。年が明け、源氏は、女性が成人したことを世間に知らす「御裳着の儀」の時に、玉鬘の君と内大臣を親娘として引き合わせるのが一番と画策する。内大臣は源氏が息子の夕霧と自分の娘雲居の雁の結婚について相談されると勘違いしていたが、玉鬘の君のことを打ち明けられて驚き、喜ぶ。恋心を寄せていた柏木の中将は、辛いけども美しい姉ができたことに喜ぶ。

藤袴』では、多くの方から宮仕えを勧められる玉鬘の君の物語。実の父内大臣に認知されてからは、源氏はさらに馴れ馴れしくなっていて、さらに夕霧の中将も思いを打ち明けるが、ただただ困ったことと受け止める。夕霧の中将は「内大臣に姫を押しつけ、宮仕えをさせたあと、自分のものにしよう」という企みだという噂を源氏に確かめる。その噂を表面では否定しつつも、「恐ろしくも見抜かれてしまった」と独言(恐)。いよいよ宮仕えに出る日が迫り、熱心な求婚者の髭黒の大将と蛍兵部卿の宮をはじめ、いろいろの方々が失恋を恨む手紙が相次ぐのだった。

『真木柱』では、玉鬘の君が女房の手引きで髭黒の大将と結ばれる。源氏は悔しい気持ちを押しとどめて、格別立派な婚礼をあげ、大将を丁重に婿として扱う。冷泉帝も出仕を前の突然の縁組に残念なお気持ちに。一方、髭黒の大将は有頂天になる。というのも、大将の北の方はもともと器量もよく人柄も良いのだが、物の怪に取り憑かれて正気を失う事がある。玉鬘の君へと愛情が移ることをかわいそうに思い、北の方の父親はお里帰りを勧めるが、お子もいる間柄なので髭黒の大将はよしとしない。けれども日が暮れると玉鬘の元へ気もそぞろになり、香を焚きしめて出かける準備を始める。北の方はその香炉の灰を大将に浴びせかけ、物の怪に取り憑かれ大声で喚き罵りはじめる。大将は、玉鬘の君の元へと急ぎ、長逗留する。北の方は別れる決心をして、姫君を連れて実家に帰る。この北の方は紫の上とは異母姉。玉鬘は、自分のために起こった事件を迷惑としか思わず、もともと嫌だった髭黒の大将との結婚にさらに嫌気がさす。そして源氏がいかに優雅で深い愛情を持って接してくれたかを知ることとなる。しかし、なんと髭黒の大将との間に男児を産む。

今年11歳になる明石の姫君の裳着の儀式が予定されていて、その後東宮の妃として入内することも決まっていた。入内の支度に当てる名香を作るため、源氏は薫物合わせを思いたつ。源氏はもちろん、紫の上、朝顔、花散里、明石の君など、皆が競って調合した薫物を兵部卿の宮が判定するが、どなたにも花を待たせる。また、お道具の一つ、草子箱に治める歌集も、源氏自ら、また兵部卿の宮、あちらこちらの女君にも書いていただくなど、趣向を凝らしたお支度となる。この『梅枝』の帖は、源氏の香道論、書道論が展開され、多彩な一面を紹介している。内大臣は明石の姫君の入内を見るにつけ、自分の娘雲居の雁と夕霧との進展がないことを嘆く。夕霧の雲居の雁への気持ちは変わらないが、『六位風情』と侮った乳人に対して、せめて中納言に昇進して姿を見せたいという意地があり、なかなか折れない。

雲居の雁の姫君が恋しくてならず、物思いに沈みがちな夕霧の中将のお姿からら始まる『藤裏葉』の帖。内大臣が許してくれそうだという噂も聞こえてきているのに、意地をはっている。ついに内大臣が折れて、「私の罪はもう許してくださいよ」と話しかけ、庭先の藤見の音楽会へと夕霧を誘う『藤裏葉』の帖。その日の宴会で酔い潰れた振りをして内大臣の屋敷に泊まり、雲居の雁とついに結ばれる。「長年の恋の積もる思いも加わって、水も漏らさぬ睦まじさ」へと。他の女に心を移さず姫君ひとりを守り通した夕霧は、源氏の息子とは思えない実直さです(笑)。明石の君は入内して、紫の上がつきそうが、3日間宮中で一緒に過ごした後は、実の母である明石の君に付き添いを交代することとする。その時、初めて明石の君と紫の上が対面するが、お互いの素晴らしさを認め合い、打ち解けることになる。翌年、源氏は40歳を迎え、朝廷を挙げてのお祝いが催される。夕霧の宰相はついに中納言へと昇進し、夫婦が幼い恋を育んだ三条殿へと住まいを移す。晩秋の頃、源氏の住まいである六条の院に帝と朱雀院が行幸、雅な宴が催される。